ニュースの概要
ヤマト運輸の新潟支店が、県内の農家による特産品「八珍柿」の収穫作業を支援している。社員やドライバーが畑に入って収穫を手伝い、営業所では収穫物の販売も始めた。背景にあるのは置き配の広がりである。これまで配送は、玄関先で対面して荷物を渡すことが前提だった。置き配を使えば、受取人の在宅に合わせた時間調整や再配達の手間が減り、現場に時間と人員の余裕が生まれる。同社はその余力を、人手不足に悩む地域の農業へ振り向けた形だ。配送の効率化を、社外の課題解決につなげた珍しい例といえる。
引用元: 置き配需要を背景にヤマト運輸が農家支援へ、配送業務の見直しで人員を創出(BSN Niigata Broadcasting)
分析・見解
再配達が減ると、現場に何が生まれるのか
宅配の現場で大きな負担になってきたのが、不在による再配達である。国土交通省の調査では、再配達率はおおむね1割前後で推移してきた。荷物10個のうち1個は、もう一度運ぶ必要がある計算になる。
置き配は、この無駄を直接減らす。受取人に会えなくても、指定の場所に置けば配達は完了する。ドライバーは同じ地区を何度も回らずに済み、時間帯指定への対応も軽くなる。
ヤマト運輸が今回見ているのは、この浮いた時間である。単なるコスト削減に使えば社内で完結する。しかし同社は、その余力を地域の仕事として外に出した。ここが今回の取り組みの核心である。
八珍柿の収穫が、物流会社に向いている理由
八珍柿は新潟の特産で、渋抜きをして出荷される柿である。収穫は短い期間に集中し、しかも手作業が中心になる。農家が高齢化している地域では、数日の人手不足が収穫量を左右する。
一方、物流会社には意外な強みがある。荷物を扱う丁寧さ、体力、地域の道を知っていること、そして決まった時間に動く段取り力である。収穫物を傷つけず運ぶ感覚は、そのまま農作業の補助に生きる。
さらに、営業所で収穫物を売る仕組みは大きい。収穫して終わりでなく、販売先まで用意している。農家にとっては、人手と販路の両方が手に入る。
繁忙期の人手不足を、業界の外と融通し合う発想
物流業界は、年末や中元期の繁忙期に人手が足りなくなる。農業は、収穫期に人手が足りなくなる。どちらも忙しい時期は違い、年間で見れば互いの暇な時期が補い合える可能性がある。
似た動きは他業種にもある。たとえば、観光の閑散期に旅館の従業員が農家で働く例や、スキー場の職員が夏に農作業を手伝う例だ。人を雇い続ける固定費を抑えつつ、地域の担い手を確保する知恵である。
ここで独自の視点を一つ挙げたい。置き配は便利な受取方法であると同時に、企業の時間を生み出す装置でもある。便利さの価値を、消費者の利便性だけで測る時代は終わりつつある。浮いた時間を社会にどう使うか。そこまで含めて、サービスの価値が問われ始めている。
一度きりの話題で終わらせないための条件
課題もある。置き配には盗難や誤配、不在時の天候の影響といった不安が残る。受取人の理解が進まなければ、余力は生まれない。
また、農家支援は本業ではない。繁忙期にドライバーが足りなくなれば、支援は後回しになる。続けるには、本業の配送が安定していることが前提だ。
今後は、置き配の利用率、再配達の削減数、支援に回せた人員の時間を数字で示せるかが鍵になる。数字があれば、他地域や他の特産品にも広げやすい。地域ごとの収穫期に合わせた支援の仕組みが育てば、物流が地域経済を支える新しい形になるだろう。
ビジネスへの影響
業務の見直しで生まれた時間に、行き先を決める
今回の事例で最も参考になるのは、効率化の成果を最初から使い道まで設計している点である。多くの企業は、業務改善で時間が浮いても、気づけば別の雑務に埋もれてしまう。
まず、見直した業務で何時間が浮いたかを測る。次に、その時間の何割を新しい価値づくりに回すかを決める。顧客向けの新サービス、地域との連携、社員の学び直しなど、行き先を先に決めておくと効果が残りやすい。
地域との連携は、採用と信頼の両方に効く
社員が畑で汗を流す姿は、地域の住民にとって分かりやすい貢献である。広告よりも信頼につながりやすく、採用の場面でも会社の姿勢を伝える材料になる。
中小企業でも応用は可能だ。繁忙期のずれた業種と短期の人材交換を結ぶ、自社の営業拠点で地元産品を扱うといった小さな連携から始められる。
ただし、支援の目的と範囲は最初に明文化しておきたい。本業に支障が出た場合の撤退基準も決めておくと、無理なく続けられる。
置き配を導入する側が確認すべき実務
EC事業者や小売店は、置き配の選択肢を提示するだけでなく、盗難時の補償ルールや写真による配達確認を整えると、顧客の不安が減る。置き配の利用率が上がれば、物流費の見直し交渉にも説得力が出る。自社の再配達率を測ることから始めるとよい。
